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【進撃の巨人】片翼のきみと

第103章 850年




壁外調査前日。私たちはトロスト区にいた。

移動での疲れを明日に残さないために、夕方にはもう兵士としての拘束は解かれ、それぞれが明日の壁外調査に備えて準備をするための時間を与えられた。

最終の物資や隊列の確認事項を幹部の皆さんと共に終えて、私にも少しだけ自由な時間が与えられたため、私は宿舎を出て、あの日アリシアに会った避難所に向かった。



「――――変わって、ない……。」



あの頃、死者もけが人の見分けもつかないほどに押し込められ、悪臭が漂っていた。それは回避されているものの、依然として――――5年という月日が経っても、明日に希望を抱けない人たちが淀んだ空気の中、うつろな目でそこに伏している。

やはり――――、私がいち医者としてここに残ったところで、何も変えられなかったんだろうと思う。この状況を打破するために、ウォール・マリアを取り戻して、この世界の真実を暴いてみせる。

手に持っていたアリシアのリボンを強く握った。





しばらく人々に聞きまわって、辿り着いたのは――――アリシアのお母さんはもう亡くなっていて、アリシアも知らぬ間にいなくなっていた、ということだった。

ここで亡くなった人たちは火葬され、この避難所の壁面に、ただの情報として名前が記されるらしい。そこに、おそらくアリシアのお母さんと思われる名前を見つけた。



「――――お母さんのこと、大事にしてたもんね。ねぇアリシア……あなたはここに、魂になっても戻ってくるでしょう?」



そう語り掛けて、壁面の凹凸にそっとリボンをかけた。

きっと―――――『余計なことしないでよ。なんであんたが来るのよ。リヴァイ兵長に来てほしかった。』なんて、言ってるかもしれない。

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