第103章 850年
「あのね、私――――、次の壁外調査の出発地のトロスト区で、アリシアの縁のある場所の様子を見に、行こうと思ってて。もし良かったら預かって行こうか…?返したいもの……。」
「いいんですか?」
「うん。」
「じゃあ、お願いします。」
そう言ってリーネさんは胸ポケットから、赤いリボンを取り出した。
「――――訓練中、私が髪を結っている紐が切れてしまった時、貸してくれたんです。ろくに、喋ったことも無かったのに。」
「――――そう……。」
アリシアの髪の色を思い出す。キラキラ輝く金髪に、この深い赤のリボンはさぞかし映えただろう。
彼女は自分とリヴァイ兵士長、そして私以外に興味がないものかと思っていたけれど――――、困っている人に声をかけて、リボンを貸すような、子だったんだ。
私は――――アリシアのことを何も知らないことに気が付いた。
「――――必ず、返すね。」
「お願いします。」
ずっと考えていた。
リヴァイさんに約束した。ちゃんと前を向いて考えるって。
アリシアを死なせたことは、少なからず私に責任はあるはずで――――、でもそれは今からもう、どうしようもない。どんなに私が後悔しても、自分を呪ってもアリシアは帰って来ない。
ならせめて―――、アリシアの大事にしたものや、見た景色を知って、彼女が生きた証を、意味をちゃんとこの胸に留めよう。
それが私なりの、彼女への弔い方だ。