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【進撃の巨人】片翼のきみと

第103章 850年




壁外調査まであと1週間。

訓練中に、私はずっと話したかった人を見つけた。休憩中にその人の元に行って、話しかけてみる。

――――覚えて、いるだろうか。調査兵団で彼女の姿を見つけたときは、とても嬉しかった。



「リーネさん。」



黒髪を束ねた、その後ろ姿に声をかけると、彼女は振り向いた。



「………あ、ナナ……さん?」

「ずっと話したかった!調査兵団に来てくれて……ありがとう。もう慣れた?」

「――――覚えてるんですか?私のこと。」



リーネさんは驚きを隠せない様子で私の方へ身体を向け直した。



「もちろんだよ。質問してくれたじゃない。」

「……たった一言、二言なのに。」

「うん、ちょっとした特技かもしれない。」



彼女が入団したのは1年前だ。

私はちょうど彼女たちが入団した頃――――、声を失ってエルヴィン団長の部屋に匿われていて、そこから王都に帰ったから――――ほとんど面識もないままここまで時間が経ってしまった。

彼女はアリシアの同期、ということになる。



「――――あの時偉そうに言ったけど、私は今回壁外調査には出ないことになったの。リーネさんは索敵だよね。すごい、2年目で索敵に配されるなんて。」

「喜んでいいのかどうか……。まぁせいぜい死なないように頑張ります。」



リーネさんはおそらく、年齢的に私とそこまで変わらない。

他の同期に比べて随分どっしりした落ち着きがあり、頭の回転も早い印象だ。



「……ここ数年離団してたんですよね?ナナさんは。」

「うん、ちょうどリーネさんたちが入団した年から、1年半かな。だからリーネさんの代の人たちと新兵の皆さんにはあまり面識がなくて。……アリシアと、少し話した、くらいだったから。」

「――――アリシア、知り合いなんですか?」



リーネさんがまた少し驚いた顔を見せた。



「……少しだけ。」

「私アリシアに返したいものがあったのに………もう、戻って来ないんですよね、彼女……。」

「そう………だね…………。」



胸が痛む。

彼女が戻って来ないのは、私のせいだと―――――言えない、汚い自分がいた。


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