第103章 850年
「でもさ、ナナが来てくれて――――あの日、ナナが入団した日に夜通し私の巨人についての話を聞いてくれた。それも、付き合わされているという顔じゃなく、喜々として――――目を輝かして。」
「そう、でしたね。そう言えば。懐かしいです。」
私がクスクスと笑うと、ハンジさんは柔らかに微笑んで私の頭をぽん、と撫でた。
「初めてだったよ。私の方から、巨人の話をもうやめにして、休もうと言ったのは。そう言って巨人の考察を無理矢理終わらせられることが常だったのに。ナナは『まだ平気』と言ったでしょう?私はそれに、随分と救われたんだよ。」
ハンジさんは立ち止まって、私を真っすぐに見た。
「ハンジさんはいつも夢中で話してくださるから、私もつられて興味が沸き上がったんです。私が目を輝かせられたのは、ハンジさんのおかげですよ。もっと知りたい、もっと一緒に考えたい、暴いてみせたいって――――ハンジさんが思わせて下さったんです。」
「~~~~~~………。」
私が真っすぐに見つめて微笑むと、ハンジさんはむぎゅっと私を抱き締めてくれた。
「ナナはありがたい!!」
「えっ。」
「人を変える力があるんだ。エルヴィンとリヴァイを見てて、そう強く思ったけど――――、私も例外じゃない。ありがとうナナ。」
「御礼を言われることなんて、何も。―――それに今は、私だけじゃなくて――――モブリットさんもいて下さいますしね!」
「ああそうなんだよ!ねぇついでに聞いてくれる?うちの副官の素晴らしさをさぁ!もう誰かに惚気たい気分なんだよね!」
「ふふ、聞きたいです!」
ハンジさんがモブリットさんの話をするのを聞くのが好きだ。
そしてまた、モブリットさんが心配そうにいつもハンジさんを目で追っているのを見るのも好き。
これもまた、ただの上官と部下でもなく、かといって激しい恋慕でもない。けれど絶対的に特別な―――――、私とリヴァイさんの関係とはまた少し色の違う“特別”が存在している。