第9章 欲望 ※
翌朝、一番に医務室に飛び込んで来たのはアルルだった。
あの時、二人は私を探して倉庫まで来てくれていたらしい。異変に気付いた時、アルルが幹部の皆さんに知らせてくれたのだった。
リンファさんは腹部を蹴られたものの、重度の怪我はなく、昼前には自室に戻っていった。午後からの立体機動の訓練にも出たそうだ。本当に、強く美しい彼女らしい。
私は医師の診察を受けることになった。正直なところ、嫌だった。自身の状態は一番自分でわかっているのに、またあの時の事を聞かれ、おぞましい光景を思い出さなければならないのか……。私の不安を察してか、ハンジさんが付き添ってくれた。
「診察をするので、服を脱げるかな。」
医師に言われた通り、私は上半身を露わにする。
その身体を見て、ハンジさんが目を伏せた。
自分でも見るのが嫌になる。
首に残る紫色の鬱血した跡は、彼の指の形が残っている。身体の至るところ唇の跡が点在していて、彼が執拗に印を刻もうとしていたのがわかる。
腹部や背中も痣になってはいるものの、そこまでの内部損傷はないことは自分でもわかっていた。
「………これで、診ていただくべき個所は以上です。下半身は触られただけで、それ以上はなにもされていませんので。」
私は手早く自身のシャツのボタンを留めた。一刻も早く、この場を去りたかった。
「……そうか。では、顔と口の中の切創は処置をしよう。少しでも早く、傷が癒えるように。」
その医師はとても優しく、穏やかな方だった。
私の気持ちを尊重して下さり、イェーガー先生を思い起こさせる。そんな、先生だった。
私は素直に手当を受け、自室のベッドに戻った。