第102章 空想
「二の腕、噛まないで……っ、は、恥ずかしい………!」
噛まないでと言ったのは、そこを攻めないで、という意味で言ったんだけど……エルヴィンは噛まない代わりに舌を這わせて腕の内側をなぞる。
「ひゃっ……くすぐったい、から……!」
「柔らかくて、つい。」
「つい、じゃないよ……!話に集中できないから、だめ……っ……!」
「――――……おあずけか。」
エルヴィンがわかりやすく拗ねたようにごろんと、ベッドに横になった。
「……前から言ってるでしょ、家はその……恥ずかしいから、帰ってからね……。」
「――――了解。お姫様には逆らえない。」
「そう、言語の話だけど……まだその言語が沢山使われていたら、いいなぁ……!外の世界の人にいつか会えたら、挨拶したい。」
「Nice to meet you.」
「えっ。」
「だったか?」
「………すごい。ちょっと拗ねちゃいそう。」
「はは、なぜ?」
「私結構時間かけて勉強したんだよ。それをエルヴィンはすぐに使えちゃうし……。」
「君の為に覚えたんだ。I love youも、挨拶も。君と同じ物を、同じ世界を見るために。」
意外だった。
いつもいつも、私のずっと先をエルヴィンは行っていて、そこに並んで物事を見られるように私が背伸びするばかりだと思っていたから。エルヴィンもまた、私に並ぼうと背伸びをしてくれていることがあるなんて。
補い合いながら、時には切磋琢磨して生きていくこと。
共に生きるという意味をより強く理解できた気がした。
「――――………。」
仰向けに寝転ぶエルヴィンの上に乗って身体を重ねて、その胸に顔を埋める。
「どうした?」
「――――嬉しいから、少しだけ甘えたい。」
「それなら抱きたい。」
「だめ。」
「――――……相変わらず君は酷い女だ。」
エルヴィンはふっと笑いながら、慈しむように強く優しく、私を抱き締めてくれた。