第102章 空想
「ナイルかな?」
「いえ……ザックレー総統でしょうか……。」
「……ああ、かもな。」
「ああそうそう、そんな名前だった。――――あの人は僕でもきっとうまく動かせない。腹の底の読めない、危険な香りがする。あんなのが兵団トップで大丈夫なんですか?」
「はは、言うな。だが半分同意だ。確かにあの人は危険な香りがする。けれどまぁ、こんな世の中で兵団を統括するのに、正直・誠実だけが取り柄の頭はしんどいと思うがね。」
「……まぁ確かに。」
ロイがまたふふっと笑った。
本当にエルヴィンの事を心から慕っている。いくら姉の大切な人だからといって、この懐きようはなんだろう。
やっぱりどこかロイは、女性を信頼していないのかもしれない。年上の男性で、それも自分が認めざるを得ないほどの人だからか。
上機嫌なロイとエルヴィンとそのほかにも他愛ない話をして、眠るために部屋に戻る。
「おやすみ、エルヴィン。」
「――――ナナ。君にちゃんと礼を言いたい。」
「なんの?」
「―――母が俺の名前を呼んでくれた。」
「ああ…でも私は何も……。私も嬉しかったよ。」
「少しだけ、話をしないか。」
「いいよ。」
エルヴィンに誘われて、その手を引かれてエルヴィンの部屋に入った。途端に、ぎゅっと強く抱き締められる。
「どうしたの?甘えてるの?」
私が冗談めかしてふふ、っと笑うと、その腕に更に力が込められる。
「そうだよ。――――ありがとうナナ。君には―――――救われてばかりだ。」
「……私のほうこそ。」
エルヴィンの胸に頬を寄せて、その背中に腕を回す。
「――――これからのことを、話さないか。」
「これからのこと?」
「ああ、長らく頓挫していた、外の世界の事をどうやって――――突き詰めていくか。」
「!!いいね、ワクワクする!!」
「だろう?」
ふふ、と笑い合って、ベッドにごろんと2人して横になる。仰向けになったエルヴィンの胸に顔を乗せて、その蒼い目を覗き込む。
「君はこの体勢が好きだな。」
「うん、好き。落ち着く。………鼓動が、聞こえるから。」
エルヴィンの右手が、私の髪を梳く。