第102章 空想
それからアランさんのお墓にお花を供えて、私の家に戻った。いつものごとくロイの機嫌が良い。研究所から早く帰ってくることが、エルヴィンを慕っている証拠だ。
「―――そう言えばエルヴィンさん、僕こないだ兵団本部ってとこに初めて入りましたよ。」
夕食後にロイが暖炉の前でエルヴィンに話し出した。
「おや珍しい。なんの用事が?」
「疫病の発生は、なにも奪還計画のような大掛かりな計画が実行されたときだけじゃないので。――――例えば、また壁が破られて――――、大勢が食われた時にも同じことが起こる。なので、そんな最悪の想定の中に、疫病を発生させないために兵団が担う役割について兵団内でも周知するらしく、その説明に行ってきました。」
「――――なるほど、一理ある。考えたくはないが……。」
エルヴィンが顎に手をやって、ふむ、と俯く。
「こんなことは起きないに越したことはないけど、起きた時に万が一巨人を食い止めて倒せても、疫病で人類が絶滅したら元も子もないものね……。ロイ、ありがとう。」
「ううん。薬の開発も順調だよ。僕のやれることは知れてるけどね。」
「―――そんなことないだろう、君は立派だ、ロイ。」
エルヴィンが微笑んでロイを褒めると、ロイは子供のように嬉しそうな顔をする。
「でも、おっかないおじさんが多くて。僕はもう兵団には行きたくない。」
「おっかないおじさん?」
エルヴィンがきょとんとして私を見た。