第102章 空想
「ここにいるのは、マリアさんがさっき“心から愛している”と言った、最愛の息子のエルヴィンです。大きくなったでしょう?」
エルヴィンはマリアさんに目を合わせられない様子で、目を伏せていた。――――また、否定されるかもしれない恐怖があるのは、痛いほどわかる。
「――――マリアさんの目と、同じ蒼です。」
私の言葉に、エルヴィンが反応して目線を上げた。
マリアさんもまたエルヴィンの蒼い目をまっすぐに見つめた。
「―――――………エルヴィン………?」
消え入るほどに小さく、でも確かに。
マリアさんはエルヴィンの名前を呼んだ。
エルヴィンの耳に届いたのか、エルヴィンは目を見開いて言葉を返した。
「―――そうだ、俺だ。母さん。」
「――――……いつの間に、そんなに大きく――――なったの………?」
「………子供の成長は、あっという間だって言うだろう?」
エルヴィンがふっと笑って、マリアさんに一歩歩み寄った。
マリアさんが伸ばしたその手を優しくとって、ベッドの淵に腰を掛けて――――とても切なそうに、嬉しそうに微笑んだ。そしてすっかり痩せて細くなった母を、ぎゅっと抱きしめて―――――マリアさんは驚いた様子を隠せない表情をしたあと、目を閉じたその端からは涙が零れ落ちた。
そんな2人を見ていた私もまた、涙が零れ落ちるのを我慢できない。
これまでの時間を埋めるのには途方もない時間がかかるけれど、せめて今この僅かな時間を邪魔しないように、私はそっと部屋を出た。