第102章 空想
「あなたもまた、愛し合った2人から生まれた、愛しい存在のはず。」
「――――………そう、だったと信じています。」
思わず涙が込み上げる。
「あら、泣かないで。」
「はい………!」
俯いた私を、マリアさんがまるで母のように優しく頭を撫でてくれた。
優しい手は、幼いエルヴィンの手を引いて、同じように頭を撫でて来たのであろう手だ。たまらなく、愛おしく思う。
鼻をすすって、もう一度マリアさんの方を向き直る。
「大人になったエルヴィンも素敵ですよ。私も心を奪われてしまうほど。」
「そうね、そうかもしれない……見てみたいわ。」
「アランさんは――――そこにいなくても、エルヴィンはアランさんの背中を追って、強く美しく、成長しています。」
「…………ナナさん……?」
「――――マリアさん、私の愛する人――――、大人になったエルヴィンに、会ってもらえますか。」
「………何を言ってるの……?エルヴィンは―――――……。」
マリアさんの目が混乱に揺れる。
いきなり受け入れられるはずはない。
けれど、ちゃんと呼んでほしい。
もう一度ちゃんと、エルヴィンのことを、その名前で。
また錯乱させてしまうかもしれないという恐怖もあるけれど、試みずに諦めない。
私は意を決して病室を出て、エルヴィンを連れてもう一度マリアさんにエルヴィンを紹介した。
「――――マリアさん。私が共に生きると誓った、エルヴィンです。」
「ナナさん………?アラン………?」
「アランさんは、マリアさんの心の中に、そして彼の―――――エルヴィンの中にちゃんといます。消えたりしない。だから大丈夫です。」
「――――………。」