第9章 欲望 ※
吹き飛んだ身体を追い、リヴァイさんは尚もビクターさんを殴り、蹴り続ける。
それはもう制裁の域を超えた、狂気すら感じるほどの暴力だった。
「やめろリヴァイ!!」
エルヴィン団長が制する声も耳に入っていないようだった。
「やめろと言っている!!!リヴァイ!!!!!……それ以上やれば、死ぬぞ……!!!!」
エルヴィン団長がリヴァイさんを後ろから押さえつけようとすると、リヴァイさんは凍てついた声色で囁いた。
「殺すつもりだが。」
「――――――っ………ダメだ、リヴァイ………!」
「なぁエルヴィン。こいつの腕だけ残しておいてやる………次の壁外調査で、『これだけしか残らなかった』と、そう言えばいいだろう。こいつは今ここで殺す。巨人に食われたほうがマシだったと、そう思うほど後悔させてから殺してやる。」
いまだかつて見たこともない程の怒りと、それに混じった狂気を感じ取ったのか、ビクターさんは息も絶え絶えに謝罪の言葉を口にした。
「ひっ…………やめっ…………ごめ………ごめんなさ………っ!」
「………リヴァイ。気持ちはわかる。彼は、それほどの事をした。だが、殺して何になる?彼女たちの気が、それで晴れるのか?」
リヴァイさんが、青白い炎を宿した眼で私を見た。
「ナナ。」
「は………はい………。」
「言え、『殺したいほど憎い。』と。俺が殺してやる。」
「………っ!」
ゾッとした。彼の眼は、本気だ。
「言え!」
「………っい、言えません!!!!彼を、放してください……っ………!もう、十分ですから……!」
リヴァイさんは大きく舌打ちをして、ビクターさんを投げ捨てて腹部に強烈な蹴りを入れ、それでも収まらない怒りを込めて倉庫の壁に拳を打ち付けた。
ビクターさんは、すでにピクリとも動かなかった。