第101章 愛情
「――――……おはよう、ナナ。」
「――――………。」
何も言わずにむくっと身体を起こして、目を伏せる。ソファに2人横並びに座って、何とも言えない空気がその場を包む。
「――――逃げなかったのか。」
「――――………。」
「俺は君に対して相当振り切った愛情を抱いている。分かっただろう?怖い思いをさせた。――――逃げても、いいんだぞ。リヴァイの元に、帰っても―――――。」
帰したくない。
共に世界を見に行くその日まで、ずっと側に―――――共に生きたい。
けれどこの歪んだ愛情をどうしていいのか迷ってしまう。
――――今まで培った他の女性たちとの経験はまるで役に立っていなくて、こんな時にもうまくナナを言いくるめることすらできない。
いつになく弱気な言葉が漏れ出てくる。
黙ったままのナナに目を合わせられなくて、この無言に耐えるのが苦しい。
「――――なぁ、ナナ――――」
「馬鹿。」
「―――――………。」
ナナの思わぬ一言に、驚いた。
ナナの方を見ると、俺には目線もくれずにただ一点を見つめて、静かな怒りを露わにしながら矢継ぎ早に俺を罵る言葉を並べた。
「大人げない。怖い。乱暴。変態。」
「………………。」
「嫌い。大嫌い――――――」
「――――――……だろうな……。」
終わったんだな。
いや、こうしてちゃんと話して終わらせてくれるだけ、彼女の律義さに救われるなと、そう思った。
「―――――………に、なれたら、楽なのに………。」
次にナナが零した言葉にまた驚いて、ナナの方を見る。ナナはようやく顔を俺に向けてくれて――――、涙を浮かべながらほんの少しだけ、笑った。