第101章 愛情
「――――ナナ………。」
服を着た状態で、身体を丸めて執務室のソファで眠る彼女を見て、心の奥に杭でも打たれたかのような罪悪感とともに―――――、そこにいてくれたことに対しての愛おしさが湧き出る。
そっと側によってソファに腰かける。
顔にかかった髪をそっと払うと、目元を真っ赤に腫らして、目じりは擦り切れているように見える。
服を着たということは―――――、出て行こうとしたんだな。俺の元から、離れようとしたんだろう。なにがそうさせたのかはわからないが、君はまたこうして戻ってきて――――……君のことだ。抗議の意を表すために、一緒に眠ってはやらない、と俺の私室には入らなかったんじゃないか。
「――――すまない………ナナ。」
その髪を撫でると、指の隙間をするんと過ぎるように白銀の糸のようなしなやかな髪がパラパラと落ちる。こんな綺麗なものを、俺は昨晩掴んで引き上げ、酷い扱いをした。
無理矢理この小さな体の至る所に欲をねじ込んで、吐き出した。
それに――――、あんなにも、ナナを責めて心を抉るような言葉を吐いた。
「――――愛するというのが、こうも難しいとは思わなかったな………。」
ナナが言葉を失って、その言葉を取り戻したあの日。ナナの胸に抱かれたあの時以外に泣いたことはほとんどない。だが今、もしかしたら君がまだ側にいようとしてくれているのかと思うと―――――、涙が込み上げる心地だ。
その髪をまたさらりと梳くと、ナナがぴくっと反応した。銀糸に縁取られた目が、ゆっくりと開いて、髪に触れている手に気付いたのか、その手を辿る様にして充血した目が俺を見上げた。