第100章 楔 ※
俯いた私の髪に、そっとその手が触れる。
リヴァイさんの目は、危険だ。
その目に魅せられて――――思考回路がうまく働かなくなる。ロイがいつか言ったとおり――――ただそこに縋るだけの、愚かな女になっていく。
目を見ないまま俯いていると、思いがけない言葉がリヴァイさんから発された。
「――――俺の元に、戻るか?」
一瞬言葉の意味をよく理解できなくて、何度も頭の中でも反芻して―――――、その意味するところを理解すると、思わず目を見開いてその目を、見てしまった。
「お前が望むなら―――――、俺はいつだってお前が欲しい。ただの部下だなんて、思ったことは一度もない。」
「――――………。」
「――――あいつならお前を守れると、一緒に歩んで行けると思って託した。だが―――――、もしお前を傷付けるようなら、渡さない。俺も傷付けずにお前を愛せる自信はねぇが―――――、傷付けた分、それ以上に愛し抜くと誓う。」
その手が、優しく私の頬に触れる。
この触れ方は―――――昔から変わらない。
愛してると言う代わりの、あなたの愛情表現だ。
「――――………。」
「――――どうする。俺と、生きるか?」
決して強引に奪おうとしない。
本当に肝心なところは、必ず私に選ばせる。
悔いのないように、私の生き方を全うできるように、例えそれが自分の望む結果じゃなくても――――それすらひっくるめて受け入れる。
あなたの徹底した献身は―――――泣きたくなるほどの愛の表れだ。