第100章 楔 ※
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―――――それから何回か、続けて体内にエルヴィンの精を注がれた。
本気で逃げないように押さえつけられたら、どうにもできないんだって、思い知った。
―――――怖かった。
何を言ったらいいかわからなくて眠ったふりをしていると、エルヴィンは耳元で『君は、俺のものだ。』と囁いて―――――私を抱いて眠った。
その腕からそっと抜け出して、起き上がって眠るエルヴィンを見下ろす。
―――――そんなに追いつめたんだね、私は。
ひどいと罵る?
ひどいのは私だ。
もともとエルヴィンはこんなことをする人じゃない。
そうさせたのは私だ。
――――胸が、痛い。
どくどくとまるで鼓動に合わせて心臓から出血でもしているかのよう。
「――――ごめん、なさい……。」
だるい身体でなんとか服を着て、そっとベッドを降りた。
今夜は新月だ。
いつも私を魅了する月が光を失って―――――闇に堕ちる日。
誰だって闇に逃げたい日もある。私だってそう。
ボタンが飛んだ服を羽織って、力の入らない足をなんとか動かして、ふらふらとエルヴィンの部屋を出て――――、執務室を出た。
どこに行くわけでもないのに、ただそこに……エルヴィンと一緒に、いられなかった。
その時、目の端に飛び込んで来たその廊下の隅の人影に血の気が引く。
「――――リヴァイ、さ……ん………。」
闇の中でも分かってしまう。
壁に寄りかかって、腕を組む姿。
身体が反射的に震える。
小さくじゃない。
ありえないほど、ガタガタと震える。
そうか、私は知られたくないんだ、彼に。
「――――ひどいことをされなかったか。」
「――――………。」
「――――俺が手を出したから――――………。」
「……い、え…………っ………。」
近付いちゃいけない。
リヴァイさんはすぐに気づく。
私の目の涙のあとも、乱れた髪も――――、引き裂かれたシャツも。
リヴァイさんがカツ、と足音を鳴らした。
私は逃げるように一歩下がる。