第100章 楔 ※
――――唖然とした。
あんなことをされて、こんなに泣いてなお、なぜこんなにも穏やかな愛情を俺に向けられる?
その言葉は俺を本当に愛しているから出る言葉だと、またとてつもなく好意的に捉えてしまう。
それが君の策だとしたら、とんだ悪女だ。
「でも――――それなら、エルヴィンだけのものにして。リヴァイさんに二度と触れないように、見えないように閉じ込めて。そしたらリヴァイさんもきっと―――――私のこと、その心の中から消せるから………。あと、ちゃんと毎日愛してね。ほったらかしはイヤだよ……。」
ナナが乱れた髪のまま、俺の首筋にとん、と頭を預けた。
「………ナナ………正気か?」
「………いつか思ったことがあるの。愛し愛されるだけの、この世界に抗う術を全て捨て去って、ただ死ぬまで愛する人の側にいるだけの生き方ができたら―――――どんなに、幸せかなって。だから――――いいよ。」
「――――ナナ………。」
「エルヴィンの中の“本当の自分”がエルヴィンを苦しめているなら、それを呼び起こした私が、責任はちゃんと――――――………。」
ナナの唇を塞ぐ。
食らいつくように、激しく。
――――君を、狂おしいほど愛してる。