第100章 楔 ※
「鎖を付けて閉じ込めて、どこにも羽ばたけないようにして――――、俺達を癒して慰めるだけの存在としてなら、こんな苦しい思いもせずに割り切れる。君にはそっちの才能もあるようだし――――、むしろ幸せなんじゃないか。目に浮かぶよ、俺とリヴァイに嬲られて悦び、堕ちて行く君の姿が。」
ナナの心を抉る言葉が、後から後から沸いて出る。
自分がこんなにも小さな男だったとは、情けない。
ナナは我慢できなかったのか、何かの糸が切れてしまったのか、ぼろぼろとただ涙を零している。
「――――なんの涙だ?それは。俺を軽蔑した涙か。」
「――――………。」
また俺を大嫌いと罵って、今度こそ俺の元を去るのか。
リヴァイの元に戻れば、あいつは俺と違って優しく、ありったけの愛情でナナを抱くだろう。
こんなみっともない嫉妬に塗れた男に、ナナが愛想を尽かすのも時間の問題だ。
「――――酷いと、嫌いと、言って――――リヴァイの元へ行けばいい。………君のことになると、こんなにも感情がついて行かない。無様なところを見せてばかりだ。―――――軽蔑されても、嫌われても仕方ない――――――。」
――――――――ただ欲しかった。
初めて俺の心に温かさを宿してくれた君の、心も身体も全部。
でもそれが叶わなくて――――どう足掻いても俺には手の届かない部分をリヴァイが持っていて――――苦しい。
最初はそれでも満足できると思ったんだ。
だが――――君を知れば知るほど愛してしまって、時間を共有すればするほど、もう取り戻せないリヴァイと君の過去に嫉妬をしてしまって、一片だけでも俺のものじゃない部分があることを赦せない自分がいる。
君の心を捕らえたと思っても、リヴァイにしか許さない心の端を君は絶対に手放さない。
なんとかして割り切ろうと、理解しようと気持ちを誤魔化してみても、リヴァイの印を刻まれた君を見た途端にそれが爆発して――――、今、君に酷い事をしている。
完全に君を俺のものにするのは不可能だとわかっているのに、気持ちを、行動を、想いを、制御できずにいる。