第100章 楔 ※
「君はまた自分を責めて、苦しむだろうと思った。リヴァイとも意見が合致して――――隠した。」
「確かに苦しいよ。でも、誰かの犠牲の上に生きてるのは今に始まったことじゃないのも分かってる。私が周りに危害を及ぼしやすい存在だっていうことも。でも――――、あなたたちが教えてくれた。全部自分のせいにするんじゃなくて、自責に逃げるんじゃなくて、ちゃんと考えて受け入れて前を向く生き方を。だから――――信じて、話して欲しかった……。」
「――――そうか。そうだな。悪かった。」
「――――いいの………。話してくれて、ありがとう……。」
目線を落とすと、それを許さないようにエルヴィンの大きな手が私の輪郭を捕らえて無理矢理視線を奪われる。
「ナナ。」
心臓がどくどくと鼓動を大きくする。
「――――俺は随分寛大に君を受け入れていると思っている。」
「――――うん………。」
「君がリヴァイを忘れられないのは分かっているし、俺はリヴァイの立ち位置を欲してるわけじゃない。君と俺の関係性は違う形で、確固たるものとして出来上がってきていると、思っている。」
「――――うん……、そう、だね。」
エルヴィンの手が、私のシャツを力任せに左右に開いた。
ボタンが飛んで、私の身体は戦慄した。
――――怖いと、思った。
「――――だから君を縛らずにいた。その結果が―――――これだ。」
首筋に幾つも残る歯形と、鬱血した痣。
リヴァイさんが欲望をなんとか鎮めようと、誕生日前日のあの約束を――――兵士長と兵士であるという最後の砦を、身体を繋げることは絶対にしないと決めているからこそのやり場のない想いを刻んだそれを、エルヴィンは許さなかった。
―――違う、抱かれてないと――――言うのもおかしい。
だって私はもしリヴァイさんが望めばきっと、受け入れてしまっていたから。