第100章 楔 ※
エルヴィンの大きな手は簡単に私の手首を一周してしまう。
手錠のようにがっしりと、しっかりと手首を掴まれたまま、団長室に引き込まれた。
怒ってる。
無理もない。
私の愚行を何度も赦して、どれだけ大きな心で受け入れても結局そこから抜け出せない私を、憎いと思うかもしれない。
憎しみが生まれるのはいつだって激しい愛情があるからだと、調査兵団に来て――――知ったから。
いつもエルヴィンは『おいで』と言う。
拒否する選択肢も含めて、私の意志を踏まえてくれる。
さっきエルヴィンが低い声で言った『来い』は、そこに独占欲や支配欲を隠そうとしていなかった。いやむしろ―――――それを滲ませて、私を従わせた。
私は従うしかないんだと、この華奢で美しい小さな鎖と翼で私は繋がれているんだと自覚する。
決してそれが嫌なわけじゃない。
私が望んだ、甘美な居場所だ。
「――――何を話してた?」
「――――アリシアの死についての真実………。」
「…………。」
部屋に入ってすぐ、扉に背を押し付ける格好でエルヴィンに囲われる。少しの苛立ちと怒りを含めた蒼い目で私を見下ろして、リヴァイ兵士長との話について問う。
素直にそれに答えると、エルヴィンは黙った。
リヴァイ兵士長の反応とエルヴィンの反応を合わせれば分かる。間違いなく、王宮での私の身代わりはアリシアで―――――、用が済んだからか、目的でも達せなかったのか、処分されたと考えるのが妥当だ。
「――――知ってて、黙ってたの……?」
「――――………。」
「なぜ……?私が、傷つくから?」
「―――――そうだ。」
「――――その嘘は、優しさじゃない……。」