第99章 陽炎
「――――アリシアのこと、話して下さってありがとうございました。――――ちゃんと向き合って心の内を整理します。」
「―――――ああ。」
「――――そして立ち上がります。ちゃんと。初めて壁外調査に出たあと―――――兵士長に、教えてもらったから。前の向き方を。今自分がすべきことの考え方を。」
「――――……ああ、あったな、そんな日も。」
「『いつか自由の空の下には、あなたと一緒に行きたいの。』」
「――――………。」
その言葉を伝えて、分かってくれるかは不安だった。
でもリヴァイ兵士長は一瞬目を開いて、小さな意外性を突き付けられたような顔で、少しだけその苛立ちを解いてくれた。
「叶えたいです。兵士長と兵士としてなのか、リヴァイさんとナナとしてになるのか、今はまだ――――わかりませんが。行きたい、一緒に。」
「………そうだな。」
「――――だからあなたが苦しい時は、こうやって受け止めたいです。――――そもそも苦しめているのが私なので――――まぁ、甚だおかしな話ですが。」
「自覚はあるのか。」
「――――ありますよ?一応。………人の心をね、一瞬で癒す魔法があるのを知っていますか?」
「……なんだそれは。」
「抱擁です。」
私は両手をリヴァイ兵士長に向かって広げた。
「――――今は夢を見られないけど、同志の――――愛する上官の苦しみを分けてもらうことはできます。抱きしめたいです。あなたを。」
「――――なに言ってんだ、そんなことしたらムラムラするに決まってんだろうが。」
「……それは……うん。我慢してもらって………。」
「鬼かお前は。」
「すみません。」
「――――おかしな女だな。……仕方ねぇ、甘んじて抱かせてやる。」
怒ってしまうかと思ったけれど、意外にもリヴァイ兵士長は承諾してくれて――――私の手首を引いて、乱れた机の上で身体を起こした。
「――――ほら。」
リヴァイ兵士長が切なげな目元のまま、両手を私に向けて差し出した。