第99章 陽炎
エルヴィンがいつか言った。
リヴァイ兵士長は人を殺す度にいちいち心を痛めてなんかいないと。殺すことに関してはそうなのかもしれない、でも―――――仲間を死なせることに関しては、この人はこんなにも心を削がれる。
それをまた、私がさせたのか。
「――――くそ………っ………。」
リヴァイ兵士長が小さく言葉を漏らした。
何もできず、何も言えず、ただただその覆いかぶさる身体を―――――、エルヴィンよりも随分小さいのに、同じような重責を負うその身体を抱き締めた。
リヴァイ兵士長は私の首筋に顔を埋めて、がり、と犬歯を食い込ませて噛んだ。
痛みすら甘い。
ふーーっ、ふーーっ、と興奮状態の獣のように息を吐いて、私を喰らう。
――――もういっそ、食い殺されてしまいたい。
私が付けた傷を癒せるなら、あなたを埋められるのなら、それでもいい。
―――――二度とエルヴィンの元に帰れなくてもいいの?
心のどこかでもう一人の私が問う。
帰りたい。
帰れない。
このまま溶けてしまいたい。
たくさんの仲間の屍の上に生きてる。
愛した親友の死の上に、私を慕ってくれた仲間の死の上に。
そんな私が、愛を求めてふらふらと彷徨うのもおかしな話だ。
どちらのものにもならずに、ただただあなた達が大事で、命を捧げたいくらいに愛していると―――――そんな想いを1人で抱いて、あなた達の記憶からも、この世からも―――――消えて、しまいたい。
だけど。
そんなことは許されない。
仲間の死から、愛する人を傷付け続けている事実から逃げることが私は一番自分を許せない。
だから逃げない。
苦しくても考えて、前を向いて、また立ち上がることを、最愛の2人から、親友から、仲間から、家族から、教えてもらったから。