第1章 出会
笑えてくる。こうも人は変わるのか。
私の髪を綺麗だと言いながら撫でてくれて、初めて披露した歌を褒めてくれたあの父は、どこに行ったのだろう。
言葉に傷ついたのではなく、父が変わってしまったことが堪らなく悲しかった。
「お言葉ですが、旦那様!」
ハルが、珍しく怒りを込めた言葉を放った。
「ご存じないかもしれませんが、お嬢様は学業でも、トップクラスの成績を修めておいでです。その優秀さから、先生方からもオーウェンズ病院は安泰ですね、とのお言葉も頂くほど。間違いなく医学の道でも、才能を開花させる方です!今のお言葉は……!」
「ナナに、家は継がせん。ロイが継ぐ。無駄に医学など学ばなくてもいい。」
「!!」
私の肩を掴むハルの手に力が籠るのを感じた。私は、ハルを守りたかった。
「お父様。私は家を継ぐなど大それたことは考えておりませんのでご安心を。優秀な弟、ロイがいますもの。ただ、人の命が救える医師は、一人でも多いほうが良いでしょう。だから私が引き続き医学を学ぶことは……お許しいただけませんか?」
まっすぐに父を見上げ、訴えた。父はわずかにバツが悪そうに眉をひそめた。
「……好きにしろ。」
その時、階段からロイが駆け下りてきた。
「お父様!!」
「ロイか。」
ロイが駆け寄り、父が抱き上げる。私の目の前で行われたそれは、幸せな親子の触れ合いそのものだった。
ああ、ロイだけでも父に愛されて、良かった。
あの子は泣き虫だから。
「ハル、ありがとう。行ってくるね。」
ハルに小さくお礼を言って、私は屋敷を出た。