第1章 出会
ワーナーさんとの出会いを思い返しながら朝食を食べ終えた私は、ハルが買っておいてくれた焼き菓子をいそいそとバッグに入れた。
ワーナーさん、喜ぶかな?このお菓子は、前回持って行った紅茶によく合うんだ。今日はどんな話をしてくれるだろう。あの日、私は自分の目に映る自由しか知らなかった。
だけど、ワーナーさんは教えてくれた。
あの壁の向こうにも、空は続いているって。
その空の下、壁の向こうには海っていう大きな水たまりがあるって。
外の世界には、その昔、たくさんの文化があったんだって。
私は、いつか行けるだろうか。
この鳥かごから羽ばたいて、自由の空へ。
ワクワクとしながらバッグを大事に抱えて階段を駆け降りた。その時、屋敷の扉が外から開いた。父が、予定よりも早く帰ってきた。私の心臓がドクン、と嫌な音を立てた。
「ナナか。どこへ行く?」
ああ、いつものあの眼だ。
「おかえり……なさい……お父様……。あの、私……」
「どこへ行くと、聞いている!」
ビクッと震えた私の前に、ハルがさっと割って入った。
「おかえりなさいませ、旦那様。お嬢様は今から歌のお稽古でございます。お嬢様は見目麗しいだけでなく、その歌声も天使のようで。先生もつい熱が入ってしまい、このような早朝からレッスンを。」
ハルが笑顔でついてくれる嘘。信頼しているハルの言葉を、父は信じたようだった。
「そうか。」
ホッと胸を撫で下ろした矢先、凍てつくような冷たい言葉が降ってきた。
「歌か。やはりあの女の娘だ。その見た目といい歌といい、男に媚びる才能はあるようだな。その調子でせいぜい地位のある男に嫁げるように頑張ることだな。お前には、その程度の存在価値しかないのだから。」