第99章 陽炎
「――――ナナさん?アリシアと親しかったんですか?」
「ううん、別に特段親しかったわけじゃ……。」
「――――そうですか。一応この手紙は、リヴァイ兵士長に届けましょうか……。頻繁にではないけど、一緒にいるところを何度か見たことがあるので……。」
まただ。
心臓の奥に、鉛のような重りがずしん、と落とされたような―――――、そこからじわじわと、何かが広がって行く。
「――――それ、私が届けてもいい……?」
「……?はい、ではお願いします。」
心臓が早鐘を打つ。
その胸を押さえながら、アリシア宛の手紙を持ってリヴァイ兵士長の部屋を訪れた。
ノックをすると、一瞬の間をもって入室が許可された。
「――――失礼します……。」
「――――なんだナナ、どうした?」
こんな時間にまだ兵服を着て、なにやら書類に文字を記している。次の壁外調査の編成か、物資のリストか―――――私をチラッとみて、またすぐに書類に目を戻した。
「……なにかお手伝いしましょうか。」
「あ?いらねぇよ。どうした、何か用があって来たんだろう?」
私が言い出しにくそうだと察したのか、カラン、とペンを置いて私を見た。
私は執務の机に近寄って、アリシア宛の手紙をそっと差し出した。
「――――なんだ?」
「アリシア宛の、手紙なんですが……。」
「………なんで俺に持って来た。」
「親しかったようだ、と――――聞いたので。」
リヴァイ兵士長は目を逸らす私のことを、じっと見ている。
視線が刺さる。
そしてふっとため息をついて、椅子に大きくもたれかかって面倒くさそうに言い放った。
「――――親しかったわけでもねぇし、俺はこの手紙を開けられれねぇ。とはいえ遺族もいないしな。酷だが、処分でいいんじゃねぇか。」