第99章 陽炎
「ダミアンさんと食事に行った場所が、貴族の方々のご用達のお店だったから、きっとすごい噂が広まって――――、ぴたりと連絡が止んだ。」
「はは、ライオネル家当主が手をつけようとしている女性に手を出すのはそんなに怖いのかな。」
「――――力のある人だって、思えば思うほど――――、少し怖くはなる、かな……。」
「………そうだな。次に食事に誘われたら、その時に考えよう。」
「うん………。」
「眠いのか?」
「ん………。」
ナナがとろんとした目をこする。
それはそのはずだ。激しい運動をしたのと同じくらいの体力を消耗しているはずだから。
「寝ようか。おいで。」
俺が“おいで”と呼ぶと、ナナはとことん嬉しそうに、幸せそうに笑って俺の腕に飛び込んでくる。
これもまた――――、父親からかけて欲しかった言葉なのかもしれない。恐らく彼女が見て来た父の姿は、背中ばかりだったのだろう。
いくらでも甘やかしてあげよう。
これまで一人で頑張ってきた君の心も身体も、疑うことなんて微塵もないほどの愛情で包んで、慈しんで愛してやる。
「――――エルヴィンに抱き締められると、落ち着く。」
「だろう?」
「――――好き。」
「ああ、知ってる。」
「おやすみ、なさい……。」
「おやすみ、ナナ。」
その愛らしく大きな瞳を閉じると、すぐに寝息を立てた。
ナナを抱いてるとよく眠れる、と言ったのはリヴァイだ。
そうだな、激しく同意する。
だが、これは俺の特権だ。
――――渡さないし、貸す気もない。