第99章 陽炎
「…え………エルヴィン……?」
その白く小さな足の甲にキスをして、上目遣いでナナを射るように見つめる。
「毎日その美しい髪に触れて、君が望むなら毎日跪いてその足にキスをしよう。」
「!!!」
ナナが顔を真っ赤にして、両手で顔を覆ってしまった。
「―――照れてるのか。」
「だ、だって……紳士なのに色気がありすぎてずるい……!」
「そうだな、俺は基本的に女性には紳士でいることを心がけているが――――君にだけは無理だ。触れる、キスするだけなんかじゃ、済まさない。快楽に堕ちるところまで責任を全うしよう。」
「どうぞお手柔らかに……。」
「君が煽らなければね。」
そう言って小さくキスをして、お互いの身体をギュッと抱きしめあった。
「――――ダミアンさん、『また食事を』って言ってたから――――、また誘われたら、どうしたらいい?」
「無下に断るのもな。実際彼と公に行動したことで、効果もあったろう?」
「すごくあったよ、悔しいけど。まずボルツマンさんがご機嫌だった。また『結婚しろ』ってうるさく言ってくるようになっちゃったけど……。あと、ふふ……他の経営幹部の掌返しも面白かったな。それに―――――、多分あの日の、私の身代わりさんが……関係を持ったのであろう人から実は――――少ししつこく連絡が来ていたんだけど……。」
「―――そういう心配なことは、頼むから手紙で一報を入れてくれと何度も言ったが?」
俺が目を細めて少しナナを睨むと、ナナは肩をすくめた。
「ごめん、なさい……。自分でなんとかしようって……、できるって……思ったから……。」
その理由に少し安堵した。
“迷惑をかけたくないから”。前までのナナならそう言っていたはずだ。
それが、自分の力で何とかできるから、何とかするという意志を理由にするようになった。とてもいい兆候だ。
だが、惚れた身としては心配だから連絡が欲しいというのも、そろそろ分かって欲しいものだ。