第98章 帰巣 ※
訓練中に、色んな人と話すことができた。
ハンジさんやミケさんはもちろん、サッシュさんや―――――もともと良くしてくれていたみんな。そして、初めましての新兵の子達もたくさんだ。これから少しずつ名前を憶えていかなくちゃ。
王都にいた時は――――、何か一つの物事を進めるにも、お伺いやご機嫌とりをしないといけない相手がいて――――それを覚えるのは苦痛だったけれど、仲間のことを覚えるのは苦にならないどころか、とってもワクワクする。
訓練を終えて、団長室をノックする。
「――――どうぞ?」
「失礼します。」
「おや、早いね。」
「――――エルヴィン団長は、今日は早く執務を終えられるような気がしたので。」
「――――それはなぜ?」
エルヴィン団長がやれやれと言った表情で、頬杖をついて私を見つめる。
「“早くナナを抱き締めたい”と、顔に書いてあったので。」
「―――言うようになったな?これも王都の猛者たちに揉まれた成果か?」
「かもしれません。……ふふ、冗談ですよ。もしまだ執務があるようでしたらお手伝いしますし、コーヒーも淹れましょうか。」
「残念ながら君の読み通りでね。もう何もないんだ。」
エルヴィン団長が両手を広げて、仕事はない、とアピールする仕草を見せた。
「――――ではコーヒーを……。」
「いらない。」
「…………。」
私の提案を強く否定して、エルヴィン団長は席を立った。
つかつかと歩いてきて私の横を通り過ぎると、団長室の扉に内側から鍵をかけた。そして私を背中から強く抱きしめて、耳元で濡れた声で囁く。