第98章 帰巣 ※
ナナが兵服に着替えて、ジャケットを羽織る。
ジャケットの下に入り込んでしまった長い白銀の髪を、両手でふわりと首元から抜く。そんな仕草すら、美しいと見惚れてしまう。
その首筋に、翼のネックレスが光っている。
「――――君に出会ってから、まじないや運命を信じそうになっている。」
「――――え?」
「言っただろう?その翼のモチーフは鳩の片翼だと。」
「ああ……そう言えば、そんな適当なことをおっしゃってましたね。」
ナナがふふ、と笑う。
「適当とは失礼だな。まじないのとおり、君は無事帰ってきたじゃないか。俺の元に。」
「――――団長、“俺”になってますよ。帰ってきたのは調査兵団に、であって、あなた個人の元にではありません。」
「――――まだ、ね。」
「――――そうですね、まだ。」
片手をナナに向かって伸ばすと、ふっと笑ってその手を取って、頬をすり寄せてくる。
「――――俺の腕の中に今夜、戻っておいで。」
「――――はい。」
頬から名残惜しく手を離し、引き際にその翼のネックレスをしゃら、と鳴らした。
はじけるような少女の笑みから、随分大人びた笑顔を見せるようになった。激動の中でちゃんと祝えないままだったが、気付けばナナも22歳か。
――――大人の女性にまた少し成長して、なんとも言い難い喜びを感じる。
「――――君の部屋を割り振っている。荷物を整理できたら、今日は団長補佐の仕事にいきなりもどらなくていい。会いたい面々もいるだろう、ゆっくり過ごすと良い。」
「はい、ありがとうございます。自主的にトレーニングはしても?」
「ふふ、君らしいな。かまわないよ。」
「ありがとうございます。では、また後程。」
――――ナナがいるだけで、こんなにも景色が違って見える。あぁもう俺は本当に惚れているんだなと実感する。
帰ってきたナナを今夜一刻でも早くこの腕に抱きたくて、一層仕事に集中した。