第98章 帰巣 ※
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夏の壁外調査が終わって、事後処理が落ち着いた頃――――――彼女は、戻って来た。
「ただいま戻りました、エルヴィン団長。」
「――――おかえり、ナナ。」
オーウェンズとして引き継いだ小さな医院に、クロエさんが自身の小さな診療所で診ていた患者も引き取り、ボルツマン氏ともやりとりはまだしながらも、おおよそのこれからの家の再建に目途が立ったらしい。
まだ完全にナナの手は離れていないが、王都には随分逞しくなったロイ君もいる。
ナナがどうしても戻りたかったのは、もう一人の可愛い弟のような存在の――――エレン・イェーガーが入団する前に、その受け入れの準備をしたかったのも理由の一つのようだ。
年が変われば850年。
俺の父と外の世界のことで懇意にしていた、ナナの夢を育てたワーナー氏ともう一人のフリゲン・ハーレットが夢を託した孫のアルミン・アルレルト。
そしてワーナー氏の日記に記されていた、“グリシャ・イェーガー”という人物の息子である、エレン・イェーガー。
この面々が揃えば、きっと何かが動き出す。
血が滾る思いと共に、ナナが危険な目に遭わないかという事だけはどうしても不安が拭えなかったが、ほかならぬ彼女の意志だ。
俺はそれを尊重する、“団長”でいると約束した。