第97章 燎
「アリシアが、その……兵長と、関係を持ってるって、言ってた、ので……。」
「アリシアはただの部下だ。」
「――――そう、ですか……。じゃあ………ナナさんは……?」
「――――………。」
なんだ、ペトラはこういう話をしてくる奴じゃないと思っていたが。アリシアから何か言われたか。………本当に引っ掻き回してくれたな、アリシア。
俺がため息をつくと、ペトラはビクッと身体を震わせた。
「――――俺が唯一愛した女だ。――――こう言えば満足か。」
「―――――………。」
ペトラは呆然と立ち尽くしている。
聞きたくなかったと言うような顔で。
「――――なんだその顔は。お前が聞いたことに答えただけだが。」
「…………。」
「アリシアの遺品整理は他に頼む。」
ペトラに背を向けると、背後でペトラが小さく呟いた。
「ナナさんは今いない……それに、エルヴィン団長に、心変わりしたじゃないですか……!」
「――――あ?」
振り返る前に、背中に体温を感じる。
ペトラが俺の背中に、抱きついていた。
こんな“女”みてぇな、大胆な行動をする奴だったか。
女はすぐに変化する。怖い生き物だ。
「――――ナナさんの代わりに、なれませんか、私……!」
その言葉は聞きたくなかった。
そう言って、それを実行して―――――、惨たらしい死に方をした女を見たばかりだ。
「――――なれない。」
「なんで……ですか……。」
「お前はお前だ。他の奴になる必要なんてない。」
なだめるように、ペトラの頭をぽんぽんと撫でる。
ナナが拗ねた時、こうするとあいつは笑うから―――――そんな事を思い返しながら、ナナとは違う色の髪を撫でた。