第97章 燎
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夜会から2日後、エルヴィンの解熱を待って俺とエルヴィンは兵団に戻った。
ナナのことは心配だが――――、あいつはこれまでも逞しくやってきた。それを信じて、手を離した。
兵団に戻ってからは、エルヴィンは怪我のことなど無かったように執務をこなしている。ナナがいない分、よほど手数はかかっているだろうに、まるで問題もないように次々と書類に目を通しては判を押していく。
この前の仕立て屋との会話の中での察知能力と言い、こいつの頭の中はどうなっているんだと思う。まぁだからこそ信じるに値するんだが。
数日後、ジルがやって来た。
その顔は浮かない顔で、アリシアの死体が見つかったと聞いた。そうなるだろうと予期していたものの、実際想像よりも凄惨な姿で見つかったと聞き、心中穏やかではいられねぇ。
ジルも――――、アリシアに惚れていたんだろう、いつもと違う表情を見せていた。
アリシアのことは壁外調査でもなく、調整日の中での出来事だっただけに兵士達への開示の仕方に悩んだが――――、残酷にも死亡したという事実だけを伝えることになった。
あいつの死が、たった1枚の紙きれに記されて―――――、掲示板に貼られる。
そのただの情報に足を止める奴も、ましてや涙する奴など―――――いなかった。
唯一、足を止めて呆然としていたのは―――――ペトラだった。
「――――兵長。」
呆然と固まった顔で俺の方に振り返った。
「……どうした。」
「アリシアに、なにか――――あったんですか……?」
「―――詳細は話せない。」
ペトラは勘のいい奴だ。こんな時期に新兵が1人死亡した事実に違和感を覚えて当然だ。
「そう、ですか……。」
「――――アリシアに身寄りはない。遺品等も兵団内で処理する。頼めるか。」
「え………。兵長の、特別な人だったんじゃ……ないんですか……?」
「――――あ?」
ペトラの声は震えていた。