第97章 燎
「――――お前はお前のままでいろ、ペトラ。」
「――――好き、です……。」
「そうか。だが、応えられない。」
「――――あくまでナナさん、だけ、なんですか……。」
「――――そうだ。我ながら笑えるがな。」
ペトラはぐっと何かを飲み込むようにして、身体を離した。
「すみません、でした……。」
「――――謝る必要はない。」
「………兵士として強くなったら――――、側に、いられますか……?」
「――――ああ、期待している。」
頭を撫でると、ペトラは顔をくしゃ、として唇を噛んで――――一粒の涙を流した。
決して嫌いじゃない。むしろ好感のほうが強い。
ペトラはまっすぐで努力家で――――人の気持ちが分かる、強く優しい奴だ。ちゃんと向き合えば愛せるのかも、しれない。
だが――――どうしてもその気になれない。
エルヴィンの横で笑うナナを見ることにも随分慣れた。エルヴィンとナナと3人でいることを、心地よいとさえ思える時もある。
ナナが笑ってるなら俺はそれでいいと思える。
―――――なのに時折、無理矢理その身体を引き寄せて、抱き締めたくなる。
俺の昂って上がった体温を、ナナの低い体温で中和して―――――代わりにナナの身体が熱を帯びるその瞬間を諦められない時がある。
共闘しているはずのエルヴィンを出し抜いて、その腕から奪い戻して、俺の籠の中に閉じ込めたくなる。
愛してるんじゃない、愛していたんだと、ナナを過去にしたくて何度も頭の中で反芻してみても―――――一向に色褪せてなどくれず、いつだって鮮明に蘇るのは―――――俺を見て嬉しそうに笑う、ナナの笑顔ばかりだ。