第97章 燎
「――――無事に解放されたのを見かけた。大丈夫だろう、お前が心配することじゃない。」
「そう、ですか……。」
リヴァイの嘘に、ナナはホッとした様子で眉を下げた。そして新たな疑問を投げかける。
「―――でも、なんで……私の代わりって分かったんですか?暗闇で――――他の人たちが至近距離でも気付かないほど、だったんでしょう……?」
「――――……暗闇であろうと、どれだけ同じ服を着ていようと………お前と他の女を見間違うわけねぇだろ。」
「――――全くだ。息遣いだけでわかる。」
「――――………。」
俺達の顔を交互に見て、ナナはたまらなく切なげに頬に熱を持たせて唇を噛んだ。
嬉しいという感情を抱くことに罪悪感を感じている、けれど沸き上がる愛しさと喜びを抑えられない、そんな顔だ。
「――――俺も疑問に思っていた。エルヴィンがいち早く、“替え玉がいる”と言っていたからより早く気付けた。あれはどこで仕入れた情報だ?」
「――――ナナがドレスの試着に行った時に気付いた。」
「あの時……?」
「店主がモノを見ながら、『どっちだったか』と言った。一点ものの仕立てで、ナナをよく見知っているのに『どっち』はおかしい。更に店主はナナのドレスを、友人の結婚式に着ていくものだと思い込んでいた。それはきっと―――――後から全く同じ物を注文した人物が、怪しまれないようについた嘘だ。ブライズメイドでナナとお揃いのドレスを着るから―――――とでも言ったんだろう。口止めしていたみたいだが、こっちが知っているていで話せば、ボロは出る。」
「――――ちょっと変な会話だと思ったの、あれが……。」
「――――ちっ、気持ち悪ぃほどの洞察力と誘導尋問だな。だが――――流石だ。」
リヴァイが不機嫌そうに脚と腕を組んだ。
「さて、今後ナナはより身の回りに注意を払わなくてはならない。――――身代わりの女が相手をした男から脅迫まがいのことをされる可能性もなくはないし――――、鼻をへし折られた中央憲兵が黙っているか、ということと―――――、ライオネル公爵の動向も気になる。」