第97章 燎
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「――――私の、ふり……?」
ナナがきょとんとした顔で尋ね返した。
「待って、そんなことして―――――なんの、意味――――――……。」
「一番は俺達の気を引いて、囮にするためだろうな。だからあんな――――。」
リヴァイが言い淀む。
確かにナナにアリシアの事を言うのは酷だ。
それに――――おそらくアリシアはもう無事に帰っては来ないだろう、奴らなら―――――秘密を知った奴を生かしておかない。
ただ、ナナの姿かたちでどう振る舞われていたかは知らせておかなければ、ナナが今後対応に困る場面がきっと出て来る。
リヴァイがちら、と俺の方を見た。
ナナに事実は半分伝える。アリシアが絡んだことだけを、伏せて。そう、俺たちは同じことを考えたに違いない。
「あんな……?」
「――――お前の姿で、お前のふりをして何人かの男と身体の関係を持っていた。」
「えっ………!」
「新月で光のない闇に乗じて、ナナの名前を陥れようとしたんだろう。最終的にそのうちの1人を殺そうとして――――、エルヴィンが阻止した。それでその傷だ。」
「私が誰かを殺したなんて噂が立ては―――――オーウェンズが潰れるどころか、エルヴィン団長が――――………。」
「それが目的だ。エルヴィンが出頭要請に応じないなら、外堀からってところか。」
ナナが唖然とする。
だが、その次に開いた口から出た言葉がまた、彼女らしかった。
「――――その女性は、無事ですか…?」
「――――あ?」
「私の代わり、に………その、男の人たちに、酷い事を……されたのであれば………。」
リヴァイが呆れ半分、愛おしさ半分の眼差しをナナに向ける。そこじゃないだろう、とでも言いたげだが――――、俺がいなければ、ナナを抱き寄せていただろう。