第97章 燎
「――――どうした?」
「ごめん………エルヴィンが、怪我、してると思うと――――……なんだか、こわ、くて………。医者、なのに……情けない………。」
――――ロイが刺された時の処置は、驚くほど冷静だった。
なのにこんなにも私が怖いのは、エルヴィンを失う可能性を感じているからだ。正直、命に関わる怪我なんかじゃない。
エルヴィンの体力なら、難なく数週間で治りきるだろう。
それなのに―――――、いつかもっと、手に負えない怪我をするんじゃないか。
もっと、命を脅かす怪我をするんじゃないかと想像するだけで、怖い。
「――――俺を失うのが怖いのか?」
「――――怖くて、たまらない。」
うつ伏せになったまま、エルヴィンが悪戯に笑う。
「――――死なないよ、これくらいで。」
「うん……。」
「頼む、ナナ先生。」
その言葉に目を丸くした。
「――――なんだか新鮮だね。その呼び方はちょっとくすぐったい。」
「ああ、言ってみて思ったが――――、良いな。今度は白衣も着せてみよう。」
「――――それ、どうせすぐ脱がす気でしょう……?」
エルヴィンの発言に、じとっとした冷ややかな目線を送ってみる。
「そんなはずないだろう。」
「あ、違うの?」
「――――着たまますることに意味がある。」
「――――ばか。」
ふっと笑うと、手の震えが収まっていることに気付く。
「――――痛かったら、声、出していいよ。じゃあ、処置します。」
「ああ、頼む。」
そう言って医者の顔を取り戻した私は、冷静に、丁寧にエルヴィンの傷口を縫合した。
包帯を巻きなおして、エルヴィンにシャツを羽織らせる。
「――――おしまい。偉かったね。」
頭をよしよしと撫でると、エルヴィンはとても柔らかく笑った。