第97章 燎
「――――ナナ………。」
「――――大丈夫?……じゃ、ないよね……痛い……?」
「………君の顔を見たら治った。」
「治ってないってば。ちゃんと診せて。――――起きられる?」
「ああ………。」
起き上がろうとするエルヴィンを支えて、その大きな身体をようやく起こせた。
「――――リヴァイ兵士長が手当、してくれたらしいけど……もう一度診るね。縫った方がいいほどなら―――処置するから………。」
「―――すまない……。」
包帯をとっていく。
なぜだろう、手が震える。傷口を見るのが怖い。
―――――こんなこと、これまで数多くの処置をしてきたのに、始めてだ。
はらりと包帯が落ち、当て布をとると、エルヴィンが小さく息を漏らした。痛いに違いない。その傷は肩が特に深い。
――――でも、身体の機能を失うような怪我ではなさそうだ。
「――――縫ったほうが、良さそう……。でも、動けそうなら病院に行った方がいい。」
ふと見ると、ベッドの脇に処置するための道具がいくつか置いてある。リヴァイ兵士長が昨日かき集めてくれたのだろう。
「一応ここでもできそう、だけど――――……病院の方が安心……。」
そう言いかけると、エルヴィンが私の腕を掴んだ。
「――――君にやって欲しい。」
「え、でも……衛生面とか、備品とかが病院の方が―――――。」
「見ず知らずの医師を俺は信用しない。君が、いい。」
こんな時にまでなんて我儘を言うのかと思いながら、ふっと息を吐く。
「――――わかった。――――うつ伏せになれる……あと、麻酔はないから……、痛い、よ……?」
「構わない。君から貰う初めての痛みだな。ありがたく受け取ろう。」
「――――それだけ冗談言えるなら、大丈夫かもしれない。」
ふふっと笑うと、エルヴィンも少し笑った。
蝋燭を灯して、蒼く揺れる炎で清めた針で傷跡を縫合していく。肌に針を何度も貫通させるんだから―――――痛いはずだ。
また、手が震える。