第97章 燎
「――――だから、アリシアにあの嘘のつき方をしたのか……?」
「……………。」
「中央憲兵がナナを守っている、なんて―――――、根も葉もない、事実と真逆の――――勘の良い奴ならすぐ気付くような嘘を………。」
「――――今ナナの周りは立て込んでるからな。変に首を突っ込もうとすれば、巻き込まれるのはわかってた。―――手を出すのは怖いと、諦めようと思わせたかったんだが。」
「―――――お前が守ろうとしたのは、ナナだけじゃ、なかったのか。」
「―――――………俺の読みが甘かった。結果良くないことになった。アリシアは――――とんでもねぇ女だが、懸命に生きようと、愛されようとしてた。それに―――――どんな奴でも調査兵団にいる以上、俺の部下であり―――――仲間だ。」
この男は本当にわかりにくい。
さも興味がないと、勝手にしろ、死ぬのも勝手だとでも言わんばかりの表情と物言いなのに―――――、本当はこんなにも情に厚くて、仲間を守ろうとしている。
「――――………ひとつだけ、わかった。」
「―――あ?」
「――――どうしようもない女だったけど、アリシアは――――男を見る目は、確かだった。」
「――――……どうだかな。」
この一件で俺はさらにこの男に絶対的な信頼を置くことになった。
その女の為に生き方を変えるほど惚れぬいた女を、友に託して陰に準ずる。汚れ仕事だってそつなくこなす残酷さと冷静さを持ちながら、惚れぬいた女のことだけでなく―――――いち部下のことまで同じように守ろうとする。
理解に苦しむ。
だが―――――間違いなく、すげぇ男だ。
この男がこれから何を成すのか、この男が守り信じ抜いている団長とナナが、リヴァイという翼を得てこの先何を成すのか、その背中を見続けたいと、思った。