第96章 経緯
一応アリシアは納得して、外が闇に包まれた頃に予定通り中庭近くの部屋に隠れた。アリシアがいなくなってから、カーフェンさんに礼を言う。
「――――カーフェンさん、ありがとうございます。思わずなんて言うべきか考えちゃって。」
「――――いや。でも、アリシアは考えが幼稚だな、歳の割には。」
「そうですね。まぁ、だからこんな馬鹿げた作戦に引き込めたんですけどね。」
「――――色仕掛けによる不正なんてものより、もっと効果的に名前を貶める方法があるなんて、思いつかないんだろう。まぁ、平和に生きて来た証拠だ。」
「――――目の前で相手の男が死ぬなんて、思ってもないでしょう。―――そうだなぁ、叫び声とかあげないでもらいたいな。“調査兵団団長補佐ナナ・オーウェンズ、年始の夜会で貴族の男を殺傷”――――十分なインパクトですね。議会も黙っちゃいない。真実がどうであれ、ナナを、調査兵団をそのままにしておくはずがない。」
ふふ、と小さく笑うと、カーフェンさんがはぁ、とため息をついた。
「――――なぁアーチ、お前なんでそんな変わったんだ?」
「え?」
「――――お前そんなんじゃ、なかっただろ。」
「―――――……。」
「中央憲兵は簡単に辞められるもんじゃないけど……お前がどうしても辞めたいなら、力になるよ。隊長にも――――かけあってみるし―――――……。」
「いいんです。」
「――――……。」
「――――俺には失うものも、守りたいものも、なにも無いから。」
「――――そう……。」
そう言ってカーフェンさんは、フードを深く被って俯いた。