第96章 経緯
「――――やってやるわよ。なんだって。」
「いい度胸だ。」
女がふっと笑った。それに続けて、少年のような声の男が勘に障ることを言う。
「――――あわよくば、君の好きな“兵長”が、ナナと間違えて抱いてくれるかもな?」
「……おい、やめとけ。」
「おっと………失礼。」
私とさほど歳も変わらなそうなのに―――――こんな幾つも裏がありそうな仕事をしていて、こいつは幸せなんだろうかとふと思う。まぁ―――――、私も人の事を言えた義理じゃない。
「――――あんた本当に気に食わない。死ねばいいのに。」
「はは、怖い女だな。だが、契約成立だ。夜会の日と待ち合わせ場所はここに書いておいた。くれぐれも周りにバレるなよ。」
「ふん、そんなヘマしないわ。」
腹を括る。
王宮に忍び込んで人を攫おうなんて輩、ロクな奴じゃないことはわかってる。
でもどうあがいてもこれ以上、私だけの力で兵長を手に入れるのは無理だから。なんだってやってやる。
――――例えば用が済んだら口封じで殺されるのかな。
それでもいい。
ただ、その時にナナさんに目一杯の心の傷を負わせてやる。自分のせいで、私が死んだと自分を責め続ければいい。ずっとずっと、私のことを覚えていればいい。
そして―――――、リヴァイ兵長にも、壮絶に死ねば少しは覚えていて貰えるかな。
それならそれで、いい。