第96章 経緯
「――――ナナさんに、なる?」
「年始に王宮で開かれる夜会に行けるように、ナナと全く同じドレスを仕立てる。僅かな隙に俺達でナナを押さえるから、君はそこからナナだ。暗闇でなら誰も気づかない。難しい事じゃない、ただ貴族や名だたる名家のおじさんたちのお相手をしてもらうだけでいい。」
「――――私、そんな偉いおじさんたちと話を合わせられないよ。ナナさんみたいに、頭も良くないし王都のことなんてなにもわからない。」
「――――話さなくてもお相手はできるだろ?得意じゃないか、君は。」
「―――――………。」
人をバカにしたような言い方しやがって。
「――――君の魅力で迫れば、言葉なんていらない。すぐにみんな、君の虜だ。」
饒舌に話すその男を、なぜか少し悲しそうに隣の女が見ていた。そして少しその女は考えたような顔をして、私に向き直って口を開いた。
「――――まぁ無理にとは言わない。でも、興味あるだろう?」
「――――………。」
「ナナのいる世界に。見てる世界に。」
「!!」
悔しい。
なんなの。
まるで私がナナさんに私が憧れているみたいな―――――……ちがう、ちがう、憎いだけ。嫌いなだけ。
だから目で追っちゃうだけ。
嫌いだから―――――ナナさんの欲しいものが欲しいだけ。
彼女になりたいんじゃない、この髪も、なにもかも。
リヴァイ兵長を手に入れたいからであって、ナナさんになりたいからじゃない。
――――――じゃあなぜ私は、ナナさんが私の名前を憶えていたあの時――――――この胸をときめかせたのだろう。
いや、ありえない。
それもすべて、気のせいだ。