第96章 経緯
――――――――――――――――――――
――――翼の日の夜、部屋に戻ってジャケットを脱ぐと―――――いつの間にか、胸ポケットにメモが入っていた。
なんだろうと思いながらそれを開くと、あの背後をとられた男からのメッセージだった。
“望みを叶えたきゃ、来い”
そう一言と、日時と場所が記されていた。
――――夜中、兵舎を抜け出すリスクは高いが、年末でもうひともまばらだ。しかも警備も緩い。行ってみる価値はある。
そう思って私は指定された日時に、薄暗い森の中の小屋に向かった。
――――これでいきなり殺されたりしたら、笑えない。
そんな少しの恐怖も抱きながら扉を開けると、目深くフードを被って口元まで隠した男と、女がいた。
「――――ようこそ。アリシア。」
「――――どうも。」
「なるほど、確かに似ている。」
女が私をみて、呟いた。会ったことはないと思うけど―――――なんで私を知っているのか。そして、似ているというのは―――――やはりナナさんにか?
「――――単刀直入に言う。ナナを消したいというのが君の望みか?」
「ええ。」
男が私に言った。
その目はなぜかどこかで見たことがある……でも、声が違う。気のせいか。サッシュさんに――――似ている気がしたけど。
「――――俺達はナナを攫いたい。利害が一致しているから、君に手伝ってもらいたい。」
「――――何を?」
「君はナナとよく似ている。」
「――――でしょうね。」
――――似せてるんだから当然でしょ、と心の中で自嘲する。
「ナナは、中央憲兵の守りと――――、調査兵団の団長補佐という立場から、団長の目も光ってる。容易に手を出せない。その隙を君に作って欲しい。」
「どうやって?」
「ナナになる。」