第96章 経緯
「アリシアが危険に晒されていると知ればナナはどうする?」
「――――自分を危険に晒して助けるだろうな、間違いなく。」
「だろう?」
「――――どちらも守れればいいが――――……アリシアが自らの意志であっち側にいるなら、どうしようもない。いつ殺られてもおかしくない。現れたその時に助けられるか――――……。」
「切り捨てる。」
「あ?」
「アリシアは守れない。元より――――自分の意志であちら側に属した以上、これは裏切りだ。守る義理もない。」
――――ここ最近のエルヴィンはナナの影響で随分人間らしい、柔和な表情になったと思っていたが、やはりまだそんな顔も持っているんだな。
血の通わない―――――冷徹な指揮官の顔だ。
「――――了解だ。」
「――――お前を連れて来て良かった。頼りにしている。」
「ちっ………胸糞悪ぃ話だ。」
まだ間に合う。
逃げろアリシア。
お前がやろうとしていることは、相当ヤべぇ。
いや、ヤバイ奴らに利用されようとしているんだお前は。
――――お前は誰かに使われるべきじゃない。もっと自分を大事にしていれば、違う生き方ができるはずだ。
――――そんな事を思ってもそれはアリシアに届くはずもなく―――――、想像した通り利用されて―――――ナナの皮をかぶって汚ねぇじじぃの慰み者にされるその姿を中庭で見た時、柄にもなく胸が痛んだ。
エルヴィンの驚くほど冷静で冷たい指示を受けて、俺は本物のナナを探すためにアリシアから目を背けた。