第96章 経緯
夜会当日、ナナがまだ王宮に到着する前。エルヴィンが俺に小さな声で言った。
「――――ナナの替え玉を用意してる奴がいる。」
「なに?」
「意図まではわからないが、おそらく確かだ。」
「――――……。」
「ナナのドレスと全く同じ物を、秘密裏に仕立ている人間がいた。」
「―――意図は、ナナを攫うまでの囮か―――――?」
「そんなぬるい用途だけだと、いいがな。」
「――――なんだ、もっとエグい使い道があるのか?」
エルヴィンは冷たい目をしていた。
静かに闘気を滾らせている。ナナを狙われていることが気に食わないのだろう、それは俺も同じだ。
「――――生きてる間の使い道は、ナナのふりをして何かをして……もしくはさせて――――その名前を貶める。そして―――――死体になってからも使い道はある。」
「――――お前は元々イカれてるが、ナナのことになるといよいよだな、お前。」
「ああ、自覚はある。が、相手も相当だぞ。俺の異常な思考も役に立つだろう?」
「――――だな。ナナには知らせるか?」
「――――いや。おそらくその替え玉に据えられているのは―――――。」
「アリシア、だろうな。」
「ああ、実家に帰省と申告があったが――――アリシアに身寄りはない。」
――――アリシアもまたイカれてる。
そんな口車に乗せられるほうも悪いとは思うが―――――、そこまで、そんなことをしてまで、1人の女の健気な想いと命を利用してまで、俺達を吊し上げたいのか。
そんなに怖いか、俺達が。
――――中央憲兵と―――――その後ろにいる豚共は。