第96章 経緯
「―――カーフェン、お前も来い。」
「は……?」
金髪で凛々しい顔立ちのカーフェンさんは、女性ながらにケニー隊長の右腕のような存在になっている。冷静沈着で隙がない、戦闘能力も指折りだ。
「おっさん1人で祭りに行かせる気か?綺麗なネェちゃんとの方が怪しまれねぇに決まってんだろ?」
「――――……非常に不本意ですが、隊長が1人で祭りに行く様子は想像するに耐えないので、行きますよ。」
こんな口をきけるのも、彼女くらいだ。ケニー隊長はご機嫌にはは、と笑った。
「―――この盤上の重要な駒だからな、調査兵団は。その調査兵団の頭2人を揺さぶる存在を消しておけたら――――調査兵団はガタつくだろうな。だが俺達が消すのは得策じゃねぇ。誰かに消させる……あぁ、もうそれは一回失敗したんだったかぁ?アーチ。」
「………言わないでくださいよ。まさかリヴァイ兵士長が来てるとは思わなかったんですよ……。」
「だよなぁ、せっかくナナに執着してる変態をけしかけて、戦力になる輩も1人貸してやったのにな。」
「――――………。」
「――――それにしても、あの時は性的暴力を忌み嫌うアーチが珍しい策を練ったもんだと驚いたよ。どういった心境の変化だ?」
サネスさんが、素晴らしい、と褒めたたえるような目で俺を見る。
――――やっぱりこの組織は、イカれてる。
そんなところにいる俺もまた―――――クソ野郎だ。
「――――別に……あのふしだらな女なら、構わないだろうと―――――思っただけですよ。」
――――性的暴力で傷ついたリンファを愛してた俺が、リンファが大事に想っている女を同じ手口で貶めようとした。
――――もう俺は堕ちるところまで堕ちてる。
リンファがもうこの世にいないなら余計に―――――堕ちきってしまうことも怖くない。
「――――そう、ナナにそっくりなあの女を囮にして―――――今度こそナナを攫う。拷問にかけて、必ず吐かせてやる。外の世界への希望を流布しうる存在であることと―――――エルヴィン団長も同じ志を持っていることを。」
「――――ついでに、ナナの名前も貶めてもらおう。」
「名前……?」
サネスさんが感情のない笑みを零す。
この顔にいつも、ぞくりとする。