第96章 経緯
数日後、情報屋を尾行した。
向かう先は当たり前のように調査兵団だ。翼の日の開催数日前だからか――――兵団はがやがやと準備で大勢が行き来していた。俺は遠巻きにその様子を観察した。
かなりの距離があり、会話の内容までは聞き取れないが仕方ない。
相手がもしエルヴィン・スミスやリヴァイなら―――――、いや、それだけじゃなく調査兵団は猛者揃いだ。
下手に近づけば一瞬で気付かれることもある。
「――――あれは………!」
――――ほら見ろ。リヴァイ兵士長だ。
多くの兵士の間を縫って、兵舎の門から少し離れた場所に歩き出した。ぬかりない、俺達がエルヴィン団長やナナを狙っているのは当たり前に知っているはずで、動向を掴もうと情報屋を雇っているというわけか。
リヴァイ兵士長と情報屋は親しそうに何やら話をしたあと、わりとすぐに情報屋は姿を消した。
――――と、思ったが、興味深いものを見た。
「――――ナナ……?!―――――いや、違う……。」
リヴァイ兵士長と別れてしばらくして、その情報屋を薄いブロンドの長い髪をした女が捕まえて路地に引き込む。
その後姿はナナ・オーウェンズにとてもよく似ていた。
リヴァイが俺と同じように情報屋を尾けてきていないことを確認して、俺は情報屋と女に近づいた。
何かを話している。
「――――そんなに目の敵にするほどか?今リヴァイと距離も置いているし――――、離団してるんだぜ?放っておきゃいいじゃねぇか。」
「良くない。あの女は生きている限り、リヴァイ兵長の心を離さない。だから邪魔なの。」
「―――怖ぇなあ、その情熱を兵長本人に向けりゃ、何か変わるかもしれねぇのに。女はなんで女を恨むんだろうな。」
「――――知らない、そんなの。ねぇ、ヤるなら早くして?あまり抜けるとバレちゃうから。その代わり――――今日の情報もちゃんと話して。」
――――往々にして行われる“性”を使った取引。
もううんざりだ。この女も、この情報屋も下らない。
だが仕事だ。
情報屋が何を女に漏らすのか――――俺は聞き耳を立てた。