第96章 経緯
俺たちの動きを、随分前から嗅ぎまわっている奴がいる。情報屋か。
「――――アーチ、また見かけたぞ。地下街上がりの情報屋の姿を。」
「サネスさん。」
「――――どこに流してるんでしょうか。他の情報屋よりも来る頻度が定期的だ。――――誰かの指示の可能性がありますね。俺一度尾けてみます。」
「あぁ頼む。お前は裏家業の才能もありそうだな。」
「――――それはどうも。」
「一週間後に開催される翼の日、という催しも――――調査兵団の力を増幅させる厄介なものだ。王にとって良くない。」
「――――あれもナナ・オーウェンズの立案だそうですね。」
「ああ。まったく、人類最強を要した頃から調査兵団の脅威は右肩上がりだ。あの団長と、兵士長、そして団長補佐のナナ・オーウェンズ。上は、トップのザックレーを押さえているだけで満足しているが―――――それじゃ弱い。直接的に弱体化させれば、――――どうにか秘密裏に、その翼を片翼でも捥げれば………我々の株も上がる。」
相変わらずサネスさんのこの、王に自分のことを認められたい欲求の強さはどこから来るのか。
狂気さえ感じるほどだ。
だが―――――リンファを失った今、俺にはなにもかもがどうでもいい。
しつこく手紙を寄こしてきていた兄貴に、一度だって返事をしなかった。ここ最近は開けもしなくなっていたが、虫の知らせとでも言おうか。その一通を俺は久しぶりに開いた。
そして――――絶望した。
ただ一言、リンファが死んだ、そう書かれていた。
信じない。
リンファが死んだなんて。
もうこの世にいないなんて。