第95章 暗夜
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そう遠くには行ってない。そう思いながら中庭を進むと、木の影に人の姿がある。
かろうじて見えるのは、レースが配された長いドレスの裾だ。
「――――――おい、そいつに何をした?」
「――――っ……、くそ、なんで追って来れた……?!」
深くマントのフードを被っているが、その声は女だった。その女の足元に倒れているのは―――――間違いなくナナだ。
「――――答えねぇならまぁいい………どのみち、ナナに何かした奴を生かしておく気はない。」
――――殺す。
そう決意して女に近づく。王宮で揉め事はマズいだろうとも思うが――――こいつらから手を出して来た。
正当防衛だ。
償わせる。
「――――……っ………!」
女が俺を見た。
見覚えのない顔だが、俺の殺気を以ってしても平静を保てるのは――――少なからず命のやりとりをしている実践経験のある奴だ。素人じゃない。どこの組織だ。やはり中央か?
そんな事を一瞬考えていると、どこからか声がした。
「――――一旦引け!」
「――――ああ……!」
その命令をした声は、まだ若い男だ。
何が起きてる―――――?いやそれよりも――――…。
あっけなく女が去って、ナナを抱き上げた。
生きて捕らえる目的だったのだろう、そうなればその先は苦痛を与えて反乱分子であると証言させるための――――拷問しか考えられない。
手の込んだことをしやがる。だが危害は加えられてなさそうだ。そんな暇もなく俺たちが来たことに驚いていた様子だった。
生きていると確信していても、その唇から息が漏れていることを確認すると、安堵する。
「――――くそ………。」
「――――ん………。」
小さく声を漏らすが、起きる気配はない。薬でも使われたのか。相手が女だったから油断したのだろう。
あんなクソみてぇな茶番で俺達を出し抜けると?
まぁ舐められたもんだな。
胸糞悪ぃ手口を使いやがって――――