第95章 暗夜
さて、どうするか―――――と考えていると、小さくエルヴィンの声が聞こえた。
「――――リヴァイ……?」
「――――エルヴィン―――――……おい、どうした。」
その肩から背中にかけて血が滲んでいる。
はぁはぁと息が荒いのは、出血と痛みによるものだろう。
「あのあと別の人物が来て―――――、口封じか、相手の男を殺そうとした。割って入ってなんとか守れたが――――不甲斐ない。このザマだ。」
「――――ちっ、あんな買春クソ野郎なんて殺させておけば良かったものを。」
「はは……まさかそういうわけにも、いかなくてな……。――――ナナのこと、感謝する。」
「ナナは問題ない。眠ってるだけだ。――――馬車を呼ぶ。歩けるか。このまま中庭を抜けて裏口まで出ろ。」
「ああ、わかった。」
俺たちは静かに王宮を抜け出して宿に戻った。
ナナを俺がとっていた部屋に寝かせて、エルヴィンの傷の手当てをする。
「――――悪いな。」
「――――悪いと思うなら怪我をすんじゃねぇよ。」
「はは、厳しいな。―――今回の件に、切り裂きケニーは関わっていそうか?」
「――――いや、あいつのやり口じゃねぇ。こんなに回りくどくこそこそとやるより、肉弾戦を好む奴だ。だが――――可能性は0じゃない。」
「……そうか。」
――――なぜ俺がその切り裂きケニーのことをよく知っているのか、俺に問いたいことはたくさんあっただろう。
だがエルヴィンは聞かなかった。
「――――今回の目的と首謀者の推測だが―――――。」
「おい待て、明日でいいだろう。今日はもう休め。」
「………ああそうか、そうだな。」
まぁまぁな出血だった。
いくらエルヴィンでも顔色が良くない。今鞭を打って話すべきことでもねぇだろうと諭す。が、エルヴィンがじっと俺を見ている。
「――――なんだよ。」
「……ありがとうリヴァイ。」
「……うるせぇ、寝ろ。」
「ああ、そうする。」
エルヴィンの部屋を出て、ナナが眠る俺の部屋の椅子に腰を掛けて目を閉じる。
今日はナナもうなされていない。
安らかなその寝顔を見つめて、頬を撫でる。
数日後――――――ある女の遺体が川に浮いた。