第9章 欲望 ※
彼女の嘘かもしれない。
でも、リヴァイさんだって成人男性だ。性欲だってあって当然だし、アウラさんと恋人同士なのかもしれない。
それに、真実がどうだったとしても、私が口を出すような事ではない。
リヴァイさんは兵士長で私の上官。
私はその部下。
ただそれだけなんだから。
自分に言い聞かせる。
でも、ダメだった。溢れる感情は、どす黒いものばかり。彼女の髪に触れたの?彼女の身体に?あの腕でギュッと抱きしめて、あの声で囁くの?
次々にあふれ出す、これまで感じたことのない不快な感情に飲み込まれていくようだった。
心臓がうるさい。
呼吸が早くなる。
たまらず兵舎の影にしゃがみこみ、自身を落ち着かせようと自身の身体を抱きしめる。
「………ナナ?!」
その時、誰かが私の肩を掴んだ。
「………何かあったのか?!どこか痛いのか?!」
そこにいたのは、サッシュさんだった。
「え、いや、あの、なんでも………ないですっ……!すみません、砂が舞って目に入っただけで………。」
私は慌てて笑顔を作る。
「見せろ!」
サッシュさんは私の顔を両手で包むと、私の目を覗き込んだ。
「なにも……無さそうだけどな……。」
心配そうに私を見つめてくれるその優しさが申し訳なくて、へらっと笑顔を作る。
「すみません、もうとれたみたいです。大丈夫です。」
「そ、そっか………ならいい………。」
「ありがとうございます。」
「なぁナナ………お前さ…………。」
「はい。」