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【進撃の巨人】片翼のきみと

第95章 暗夜




「――――これはこれは、一年ぶりですね、エルヴィン団長。」

「――――ライオネル公爵。」

「再びお会いできて嬉しい。おや、今日は麗しい補佐官はご一緒ではないのですか?」



――――白々しい。

ナナが離団していることも、王都に戻っていることも、この男の情報網で知りえないはずがないのに。



「―――ええ。諸事情で、彼女は今日オーウェンズの代表として出席しています。お会いになってませんか?」

「そうですか。いえ、まだ。」



早くナナを追わないと――――気持ちがはやる中、中庭の方へちらりと目をやった。



「―――大変恐縮ですが、別の方に呼ばれているので、後でまた―――――。」



話を切り上げようとしたとき、彼はふっと笑みを零して言った。



「――――愉快だな。」

「……なにか?」

「――――彼女との関係をわざと噂にして操ろうとしていたあなたが、まさか噂に呑まれるほど彼女にのめり込むとは。自分でも想定外というところですか?」

「―――――……。」

「―――彼女は恐ろしいですね。」



――――気に食わない。

いつかその余裕めいた顔に吠え面をかかせてやろうと思いながらも、調査兵団団長に相応しい紳士的ふるまいを選ぶ。





「そうですね、まったく想定外で自分でも驚いていますよ。―――嬉しい悲鳴というやつです。」





最後の一言だけは思わず私情が挟まってしまったな。彼もそれに反応して、面白く無さそうに眉をぴくっと動かした。



「――――では失礼。」



まだ辛うじて敵という立ち位置ではないにしろ、厄介な相手には違いない。まったく俺のお姫様はとことん面倒な男に好かれて困るな。そう思いつつ、中庭でナナの姿を探す。

遅れてリヴァイも横に並んだ。

中庭に足を踏み入れると、荒い息遣いと小さな会話がかすかに聞こえる。



「――――っ、は、あっ…………!」



その声の方へ物音を立てずに近付くと、新月で月明かりもままならない―――――フロアから漏れ出る微かな灯りすら届かない建物の陰に、その姿を見つけた。

暗くてよく見えないが――――絡み合う男女の姿だ。

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